イラク:米軍脱走兵真実の告白

ジョシュア・キー&ローレンス・ヒルイラク 米軍脱走兵真実の告発』(合同出版、2008年)を読んだ。これは私が今年読んだ本のなかで、最もヒットだった本の一冊だったと思う。米国で誰が軍隊に志願するのか、リクルーターの説明の嘘、イラクに派兵された米兵たちが一体何をしていたのか、なぜ脱走することにしたのか・・・、これらが綿密に書かれている。

文体はけっして難しくないので、すぐに読める本ではあるけれど、内容的に重みがある本だと思う。イラク関係の本は、イラク人本人、日本のジャーナリストによる本、学者が書いたイラク書があるけれど、2003年のイラク戦争に従軍した米兵が書いた本は、日本では発行されていないはず(もしあったら、ごめんなさい)。

私が思ったのは、ジョシュア・キーさんという元米兵(カナダに亡命申請中)は、非常に素朴な米国の田舎の青年なんだと思う。労働者階級出身で、高学歴でもなく、米国で家族を養っていくことが経済的に非常に困難になったとき、米軍に入隊。よくある話だ。家族がいるので、戦闘地には送られない、というリクルーターの話は完全に嘘だった。彼はだまされて、イラクに行き、そこでイラク人の家宅捜査などを担当し、最初は金品を盗んだりしていたものの、そのうちそれが間違った行為であることに気がつくようになる。米軍がイラク人に恐怖を与えていることに気がつき、彼は最終的に米国に休暇で帰ったときに脱走する。これは非常に大きな勇気を必要とするものだ。そう思っても簡単にできるものではない。彼の場合は、心のなかで良心を行動に移す決意をすることが、良心の葛藤に苦しみながらも米軍に従事し続けることに勝ったということなのだろう。

おそらく同じような悩みを持っているのは、ジョシュアさんだけではない。現実の姿を見たとき、あるいは自分たちがやっている行為に向き合ったとき、疑問を持つ兵士は他にもいるだろう。人間は理性的ではない。これはこの本でも証明されている。しかし、その言葉だけで人を判断できない、ということをこの本は描いている。

読んでほんとうによかった。ジョシュアさんのカナダでの亡命申請が正式に認められますように。