プライド 共生への道

 李実根『プライド 共生への道:私とヒロシマ』(汐文社、2006年)を読んだ。先日、イタリアとパレスチナから音楽家が来日したときに広島に連れて行った。そのときに、平和祈念館を訪問し、そこの売店で見つけた本。朝鮮人被ばく者のその後の人生を描いた本を読んでみたかったこともあり、本書を目にしたときにそのまま買ってしまった。

 もちろん、李さんの人生はヒロシマで被ばくした3万人の朝鮮人を代表するものではない。それぞれの被ばく者が皆、異なる人生を歩んできている。広島に住んでいる人もいれば、朝鮮半島に戻っている人もいる。住んでいる場所によって生活やその後のケアの状況は随分異なるだろう。

 李さんは日本の植民地時代に軍国少年として洗脳教育を受け−その過程では朝鮮人差別を受けているのだが−、最後は広島で入市被ばくした。日本の敗戦後は中国地方を拠点に、日本の敗戦後に在日朝鮮人として政治活動を始めた。米国による朝鮮戦争に反対するビラをまいたことから逮捕され、そのなかでさまざまな罪をでっちあげられたりしたことなどから、政治犯として長い獄中生活を送った。

 ライフ・ヒストリーを読むことで、社会に存在する不正義の「実態」を垣間見ることができることがある。まさしく李さんの本はそのことを実感させるものだった。私は同じ社会に住んでいる在日朝鮮人が置かれてきた状況をどれほど「理解」しようとしてきただろうか。日本の植民地支配から「解放」された朝鮮の人々が、南北分断に巻き込まれてきたことを私はどれほど関心をもって向いあってきたのか。あるいは核兵器のことを考えるときに、広島や長崎で被ばくした朝鮮半島出身者のことを少しでも思い描くことがあっただろうか。平和公園朝鮮人被ばく者の碑の前で追悼することがあっても、心から真剣に考えてきたとは到底いえない。

 そのことを再度考えさせてくれた本が『プライド 共生への道:私とヒロシマ』だった。今度は被ばくした朝鮮半島の女性たちのライフ・ヒストリーを読んでみたい。所属している某学会の分科会で彼女たちのライフ・ヒストリーの聞き取りをされている方の報告を聞いたことがあるのと、このブログでも紹介した平井和子さんの本で少しだけ読んだことがある。もっと読みたい。李さんが書かれた「白いチョゴリ被爆者」(1979年)を図書館か古本屋あたりで探して、読んでみよう。