子どもたちと話すイスラームってなに?

 イスラーム文化圏研究を教えるにあたって、イスラームの簡単な概説書というか、教科書を探していた。論文用の資料ではなくて、簡単なもの。アラブ、イスラーム研究を専攻している学生さん用の講義ではなくて、リベラル・アーツの大学で担当するイスラーム文化圏研究で参考文献、教科書として揚げることができるものという意味。

 いろんな概説書がある。そのなかで入門の入門書として選びたいのが、タハール・ベン・ジェルーン『子どもたちと話すイスラームってなに?』(2002年、現代企画室)。これはホン方に読みやすい本だ。最近の学生さんは、「対テロ戦争」の影響を受けて、イスラームをとても怖い宗教と思いこんでいる傾向がある。まずはその誤解に疑問を持たせることが大切。そういう点ですぐれているのが、同書だと思う。読むのが早い学生さんは、おそらく一日か二日でさっさと読めてしまう本。で、ここで基礎の基礎ともいうべき一般的な知識を身につけ、次の概説書というか入門書にいけばいいのでは、と思っている。

 授業中にこの本を見せると、「あ、この本だったらいけそうだよ」みたいな声が聞こえた。いきなり分厚くて、難しそうという印象を与える本は、読んでもらえない可能性が高いからなあ。徐々に徐々に内容を深めていくのが教育。

 著者のタハール・ベン・ジェルーンは、この本を9.11の事件とムスリムの問題から始めている。これは重要だ。あの事件はその後のムスリムのイメージを悪くし、パレスチナアフガニスタンイラクへの軍事攻撃を正当化するものへとつながった。その意味でも、同書は、新聞報道やテレビのニュース等で受けつけられたイスラームムスリムのイメージや誤解を払拭ことにつながる一つのカギとなると思う。もちろんこれだけでは参考文献として不十分なので、あくまで入門書の入門書やね。