ルポルタージュ 英国版 人権を守る人々

 播磨信義『ルポルタージュ 英国版 人権を守る人々:英国の冤罪事件と救援運動』(法律文化社、1995年)を読んだ。少し古い情報だけど、十分、資料的価値がある。播磨さんという方のお名前を恥ずかしいことに存じていなくて、最初はジャーナリストだと思い込んでいたのだが、本が届いてからびっくり。関西の大学の憲法学の先生だった(その後の情報で知ったのだが、不慮の事故で亡くなったそうだ。残念)。

 この本は本当におもしろい。サバティカル?で滞在していたイギリスで、冤罪事件の救援会の会議や活動に参加することで得られた情報を人権の観点からまとめたもの。名張ぶどう酒事件をめぐる国際連帯が、彼の働きによって生まれていることからも、単に観察をしていたというよりは、アクション・リサーチに近い形態の研究活動をイギリスでやっていたともいえるだろう。

 スリランカ難民の内部抗争から生まれた殺人事件の容疑者として逮捕され、有罪判決を受けた二人の青年の事件やIRAの爆弾事件の容疑者と疑われ有罪判決を受けた後に、長い獄中生活を送ってきた人々などに焦点をあてながら、英国の冤罪事件の問題、救援活動の問題点や参考にすべき点を描いている。すばらしい。私自身も長いことイギリスに住んでいたけれど、冤罪事件のことを調べてみようなどとは思いもしなかった。イギリスでの生活を終え、日本に帰ってからこのような本を読む始末。恥ずかしい。最近、イギリスの市民的自由の研究に着手し始めたので、この本はその手がかりとして、非常に参考になった。1990年の人権法に関する情報もあるとよかったなあ・・・。
 
 IRAによる爆弾事件の容疑を受けた人々に対する拷問もひどい。ここにはアイルランド人に対する差別意識が反映されているんだろうなあ。この本を読んで少しだけ感じたのは、IRAによると思われる爆弾事件をイギリスの住民はとても恐怖も感じてきたと思うのだけど、それはイスラエル人の感情にも通じるものがあるということ。これらの人々に大きな同情を感じて書いているわけではなく、私が感じたのは、占領というのは被占領者だけでなく、占領者の命も危なくするということ。イスラエルの左派の運動のスローガンの一つ「占領は双方を殺す」がイギリスでも起きていたことを今更ながら実感したというわけ。

 さて、もっと市民的自由に関する本を読んでしまおう。