戦艦大和:生還者たちの証言から

 栗原俊雄「戦艦大和:生還者たちの証言から」(岩波新書、2007年)を読んだ。この本は毎日新聞に連載されていたものを修正加筆したもののよう。私もその連載を読んでいたから、本として出版されると聞いて「買わなくっちゃ」と思っていた。証言者の証言、遺族の思いとその証言はとても大切だと思う。

 でも、本を読んでみて少し期待外れかなという気がしてしまった。なぜなんだろう。貴重な証言がたくさんあるのに。うーん。それはこの本の視点に納得できないものがあったからだと思う。それを考えるのにちょっとだけ時間がかかってしまった。

 戦艦大和なる「あほらしい」ものが作られた日本の近現代史を見るためにかかせないものとしては、日本の軍国主義植民地主義がある。日本がたどった道、そして今なおたどりつつある道に対するクリティカルな視点が抜けている、というのが本書だった。だから、私は納得できない部分があったんだと思う。遺族にその視点を求めすぎるのはいささか過酷かもしれない。だけど、著者はそれができると私は思う。

 私の母も遺族だ。大和ではないけれどもあの戦争で父を亡くし、そのことが彼女の人生を大きく変えた。そのことを彼女は語りたがらない。しかし、彼女の戦争に対する考え方、イラクパレスチナで亡くなる人々の遺族に対する深い共感は、あの経験から作られたものであろうと私は推測している。誕生日を祝っている日に父の戦死の知らせを聞くなんて、あまりにも惨い。そんな経験をしてきた彼女は、日本の右傾化や軍国主義化に危機感を募らせている。

 母は数多くの遺族の一人。あの戦争から侵略戦争がいかに間違っているかを身をもって学んだ一人でもある。戦争はやってはならない。私の家族は、学校での勉強よりもなりよりもそのことを一番重要なものとして教えてくれた。