ウルフィーからの手紙

 いい本に出会った。読み終わったときにそんな気持ちにしてくれたのはパティ・シャーロック「ウルフィーからの手紙」(評論社、2006年)。ベトナム戦争時代の米国でぼく、ことマークは愛犬のウルフィーを軍に差し出した。ベトナムで米兵を守るのに軍用犬が必要であると聞いたからだ。

 米国の政策に疑いを持たず、純粋に米兵のためになると思い、ウルフィーを差し出したマークだったが、一度差し出したら、自分の手元に戻ってくることがないとは想像もしていなかった。なんとかしてベトナムでの役目が終わったウルフィーを戻したいと願うマークは動き始める・・・。

 この本が反戦をモチーフとした分かりやすい小説だったら、これほど夢中になったりはしなかっただろう。一人の少年の成長がとても自然に描かれていたからこそ、私はどきどきしながら読み進めたのだった。軍に志願した兄、兄がベトナムに行ってから図書館で働き始めた母、米国の正義を信じている父。ウルフィーや兄をめぐって、揺れ動く家族。そのなかで、少年や母は気付く。米国によるベトナムへの介入が間違っていたということを。

 非常勤先の授業のなかで紹介したら、いつも眠そうにしている学生さんたちが真剣に聞いてくれた。やっぱり学生さんたちにはいい本を紹介しないとね。