パレスチナ

 ジョー・サッコのコミック「パレスチナ」の邦訳(いそっぷ社、2007年)を読んだ。英語版はかなり昔に読んだ。イギリスに住んでいた頃。このコミックは、おそろしいほど正確に被占領地に住むパレスチナ人の生活を描いている。そうそう、そうねと思うシーンがたくさん出てくる。といってももちろん私の印象が正しいとも限らないけれど。邦訳版の訳はそれなりに上手。読みやすい。パレスチナのことがよく分からない、という学生さんにはぜひおすすめしたいと思う。

 占領下の生活を淡々と描くこと。実はこれはとても簡単に思えて、難しい。こんなに苦しいけれどがんばって暮らしている!というような視点が、過度に美化した表現をもたらすこともある。悲しみだけではない。屈辱だけではない(実際には屈辱に満ちているのも確かなんだけど)。そこには悲しみとともに笑いだってある。人が住んでいるのだから当たり前のこと。

 パレスチナ関係の授業のあとに学生さんにレポートを書いてもらうと、同情した書き方をしている記述が妙に目立ってしまう。特別な目で見ている証拠。人としての生活があるということ。その視点にたって、占領下に生きるということの意味を考えてもらえるような授業を作りたい。