私は「蟻の兵隊」だった:中国に残された日本兵

 奥村和一・酒井誠著の「私は『蟻の兵隊』だった:中国に残された日本兵」(岩波ジュニア新書)を読んだ。読み始めるとぐいぐい進む。奥村さんという元日本兵がいかなる理由で中国に残されたのか。また日本兵がどのように洗脳教育をされてきたのか。これらのことを考えるにはとてもいい本だった。
 今から出かけないといけないので、とりあえずこの本に書かれている奥村さんの言葉を記しておきたい。

 「誤りの元である戦争を体験した人がみんな死んでいくわけでしょう。私たちでもう終わりですからね。だから、これは非常にせっぱ詰まった問題だと思っているわけなんです。
 私ははじめから人殺しではなかったのです。人を殺すのが正しいとは思っていなかった。しかし兵隊に行けば、人を殺すほど正しいということになっていくわけでしょう。殺される人間は敵だから、殺されるのが当たり前だと。殺されるのが悪いんだという。そういうふうに人間性そのものから変えられていくわけでしょう。戦争とはそういうもんなんです。そうでなかったら戦争はできないんです。(中略)
 戦争というのは、このように人を傷つけ、精神状態を変えていくものです。だから『戦争はやらない。戦争への道は歩まない』ためには、戦争とはどんなものだったのかということを、知ってもらいたいわけです。歴史的な問題というだけでなくて、それに参加した人間がおこなった行為がどんなものだったのか、戦争の実態を知ってもらうこと、それしかないと思います。」(181-182頁)

 胸にしみいる。人間性を変えることの恐ろしさ。いや、人間というものはもともと理性的ではない。だからこそ、人間性を変えることが可能なのかもしれない。私は韓国でもそう思わずにはいられなかった。